発展編 第7章 未来型の働き方を目指して 1 「在宅ワークを普通の働き方としていくために」 堀越地域計画研究室主宰 在宅ワーク研究会代表 堀越久代 人生設計の中で自然に始めた在宅ワーク 私が自宅を拠点に仕事を始めたのは、多くの仲間同様、出産・育児を機に生活との調整を余儀なくされたためです。それは、今から13年前のことで、まだ在宅勤務という言葉も語られることが少なかった頃で、企業側との合意のもとに当然のように雇用契約を解除し、プロジェクトごとの契約(といっても口約束)でそこから仕事を請け負う形に切り替えました。バブル経済崩壊後は、複数の機関から仕事を請けるフリーランサーとなりました。 私にとってこの働き方は、常勤の頃からある程度予定していたものでもありました。就職したシンクタンクは、中途採用が多く定年は45歳、終身雇用の仕組みがありませんでした。私自身も、早く自分の分野を確立して独り立ちしたいと考えていました。仕事面で一人前に走り出したら結婚して子どもを産む。手探りでそれを現実の姿にしてきた日々だったと思います。 不自然なのはどちらの働き方か? 在宅ワークが厳しく感じられた山はいくつかあります。最初の山は、在宅化しようとしたその時。自宅へのFAXやワープロの導入支援を企業に求めましたが「特例はつくれない」と断られました。しかし、今は自力で導入してよかったと感じています。やがて来た次の山(バブル経済の崩壊)を上るのに身軽だったからです。その時は、業務に参加しても報酬も経費も支払われず、契約を前提とする請負の重要性を思い知るとともに、他社と付き合う自由が与えられたと思いました。ほぼ同時にもう一つの山が来ました。当時は年収120万円。税務署に申告に行くと、「その収入では申告の必要がない」と言われました。「何だか変だ」と思いました。 やがて申告の必要のある収入を得るようになると「お宅は旦那が常勤だから一人前の収入は必要ないだろう」と取引先から言われました。開業したらますます風当たりが強くなりました。常勤者とチームで働いていると、彼らは定期的な収入と社会保障と経費がセットで保障され、その幸せに気づいていないことが多いのに驚きます。企業は、どうして被雇用者をわが子のように庇護し、被雇用者はどうしてあんなに安心して企業に身を委ねるのでしょうか。 働き方の全体が変わる必要がある 在宅ワークは、子育て中の女性と仲の良い働き方ととらえられることが多いようです。世帯単位の財布勘定(税金や社会保障制度)や、家庭における男女役割分業体制が、子育て中の女性が一人前の職業生活を送ることにブレーキをかけていると考えられがちで、事実でもあります。 しかし、私は本当の問題はジェンダーにあるのではなく、常勤雇用とその他の働き方があまりにも明確に区分されていることにあるのだと考えるようになってきています。言い換えれば、様々な制度や経済活動が企業を窓口とし、生活では世帯が単位となっていること。その原理が変わり、個人を単位とするシステムがより広がらない限り、在宅ワークが普通の働き方になることはないでしょう。否、現状のまま普通の働き方になってしまったら困りますが。 苦境に立たされる在宅ワーク 平成12年6月、労働省は「在宅ワークの適正な実施のためのガイドライン」を策定しました。並行して通産省がマイクロビジネスの振興策を打ち出しています。しかし、まだまだ個人のエンパワーメントに直結する政策にはなっていません。中間業者が過剰に乱立し、下請価格が下がり、その結果驚くべき安値(経費にも満たない)で請け負う在宅ワーク環境が垣間見られるのが現状です。この傾向はこのままいくと世紀を超えて持ち越されるでしょう。 しかし、在宅ワーク、マイクロエンタープライズ政策はまだまだ緒に着いたばかりの赤ん坊です。現在の苦境をバネに、今度は私たち在宅組が新しい流れをつくっていこうではありませんか。それには、企業と向き合う毅然とした姿勢が最も必要と思われます。それは、何もガイドラインのパンフレットを手に企業に契約を迫ることではありません。個々人のプロ意識と確実な業績(できれば常勤者の水準を超える質とそれを手立てとする実質的な交渉手腕)が今ほどものを言う時代はないのではないでしょうか。 個人で働くことの威力 在宅ワークは、常勤雇用と対極の働き方だと思います。しかし、都合のいいことに折しも情報社会の窓が開かれました。世界は、フラットでフェアでフレキシブルなデジタルコミュニケーションのビッグバン時代に突入しています。そのうちに新たな階層化が進展することも考えられますが、まだまだ企業も個人もスタートラインに着いたばかり。柔よく剛を制するチャンスもあります。 世界では、柔軟性と個性・創造性が価値を生み、産業社会のみならず地球環境や成熟化する生活社会を救う力として求められています。そして、多くの人々が、それは企業・組織に属するのではなく、自由な個人から生じる性格のものであることに気づきつつあります。個人の個性と資質を必要に応じてネットワークし、仕事や生活の場面に活かしていくこと。これこそ究極の在宅ワーク、テレワーク社会の姿ではないでしょうか。 次世紀は早晩必ずやテレワーク社会が到来するでしょう(常勤雇用の方が特殊な働き方となる流れにあるのではないでしょうか)。在宅ワーカーは、それを先端的に切り開くセンスを手にしているはずです。個人が自由と責任をコントロールし、個人の力をうまくつなぎ調整していくマネジメントシステムの構築に努力していきたいものです。 |
| ≪戻る┃次へ≫ |