昭和60年12月20日付け基発第705号
「VDT作業のための労働衛生上の指針について」
1 はじめに
近年、マイクロエレクトロニクスや情報処理を中心とした技術革新により、各産業分野でオフィスオートメーション化が急速に進められており、VDT(Visual or Video Display Terminals)が広く職場に導入されてきた。これに伴い、VDT作業に従事する労働者の健康確保の問題がクローズアップされるようになった。
労働衛生においては、関係労使が適切な作業環境管理、作業管理及び健康管理に積極的に取り組むことがその基本であるが、VDT作業における労働衛生管理についてもこのいわゆる三管理が重要であることはいうまでもない。このような観点から、昭和59年2月に当面の措置として発表した指標(ガイドライン)としての「VDT作業における労働衛生管理のあり方」を、機器の改良やその後内外で得られた人間工学、労働生理学等の分野における知見に基づいて見直すとともに、新たに健康診断の項目及び労働衛生教育等について具体的に示したものが本指針である。
本指針は、標準的なVDT作業を対象としたものであるので、各事業場においては、これをもとにVDTを使用する作業の実態に応じた労働衛生管理基準を定める必要がある。また、この基準を適正に運用するためには、労働衛生管理体制の整備と各級管理者の活動が基本となるのはもちろんであるが、VDT作業に従事する労働者がその趣旨を理解し、積極的に基準の履行に努めることが極めて重要であるので、適切な労働衛生教育を実施することが不可欠である。
なお、職場における基準を新たに設けたり変更する場合には、その基準を職場の作業実態によりよく適合させるために、試行期間を設けるとともに、衛生委員会等においてその効果を確認していくという弾力的な運用が重要である。
2 本指針の対象
本指針は、事務所(事務所衛生基準規則第1条第1項に規定する事務所。)において行われるVDT作業(CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ、キーボード等より構成されるVDT機器を使用して、データの入力・検索・照合等、文書の作成・編集・修正、プログラミング等を行う作業をいう。以下同じ。)に関する労働衛生管理を対象とする。
なお、事務所以外の屋内作業において行われるVDT作業及びVDT作業に類似する作業についても、本指針を参考にして労働衛生管理を行うことが望ましい。
3 作業環境管理
(1) 照明及び採光 イ 室内は、できるだけ明暗の対照が著しくなく、かつ、まぶしさを生じさせないようにすること。 ロ 陰画表示のCRTディスプレイを用いる場合のディスプレイ画面における照度は500ルクス以下、書類及びキーボード面における照度は300ルクスからおおむね1000ルクスまでとすること。
また、CRTディスプレイ画面の明るさ、書類やキーボード面における明るさと周辺の明るさの差はなるべく小さくすること。ハ 直接太陽が入射するなどの高輝度の窓については、ブラインド又はカーテン等を設け、必要に応じてその輝度を低下させることができるようにすること。
(2) グレアの防止 CRTディスプレイは、作業者の視野内には高輝度の照明器具・窓・壁面や点滅する光源等がなく、かつ、CRTディスプレイ画面にこれらが映り込まないような場所に設置すること。
映り込みがある場合には、必要に応じ、次の措置を講じること。イ CRTディスプレイ画面の前後の傾斜の調整を行うこと。 ロ 低輝度型照明機具を使用すること。 ハ CRTディスプレイにフード又はフィルタを取り付けること又は反射防止型CRTディスプレイを用いること。 ニ その他グレアを防止するための有効な措置を講じること。
(3) 騒音伝ぱの防止 プリンター等から不快な騒音が発生する場合には、騒音伝ぱの防止措置を講じること。
(4) その他 換気、空気調和、静電気除去等について事務所衛生基準規則に定める措置をはじめとする必要な措置を講じること。
4 作業管理
(1) 作業時間等 イ 一日の作業時間 連続してCRTディスプレイ画面からデータ等を読み取り又はキーを操作するVDT作業(以下「連続VDT作業」という。)に常時従事する労働者については、視覚負担をはじめとする心身の負担を軽減するため、できるだけCRTディスプレイ画面を注視する時間やキーを操作する時間が短くなるよう配慮することが望ましく、VDT作業以外の作業を組み込むこと又は他の作業とのローテーションを実施することなどにより、一日のVDT作業時間が短くなるように配慮することが望ましい。
ロ 一連続作業時間及び作業休止時間 連続VDT作業に常時従事する労働者については、一連続作業時間が1時間を超えないようにし、次の連続作業までの間に10〜15分の作業休止時間を設け、かつ、一連続作業時間内において1〜2回程度の小休止を設けること。
(2) VDT機器等 イ CRTディスプレイ フリッカーは、知覚されないものであること。
文字又は図形の輝度及びそれらと背景の輝度対比(コントラスト)はVDT作業従事者(VDT作業に従事する労働者をいう。以下同じ。)が容易に調整できるものであること。
文字又は図形は、次の事項が考慮され、読み取りやすいものであること。(イ) 大きさ及び形状 (ロ) 文字又は図形及び背景の色彩 (ハ) 文字の間隔及び行の間隔
ロ キーボード (イ) キーボードは、その位置がVDT作業従事者によって調整できるものが望ましい。 (ロ) キーは、ストローク(押圧距離)及び押下力が適当であり、操作したことをVDT作業従事者が知覚しうることが望ましい。 (ハ) キートップ等に印された文字や記号は、できるだけ明瞭で判別しやすいものであること。 (ニ) キーボード及びキートップの表面は、つや消しされたものが望ましい。 (ホ) キーは、操作が円滑に行えるように配置されているものであること。
ハ 椅子 安定しており、かつ、容易に移動できること。
床からの座面の高さは、少なくとも35cm〜45cmの範囲で調整できること。
複数のVDT作業従事者が同一の椅子を使用する場合には、高さの調整が容易であり、調整中に座面が落下しない構造であること。
適当な背もたれを有しているものであること。
必要に応じてひじ掛けを有しているものであること。
ニ 机又は台 作業面は、キーボード、書類、書見台その他VDT作業に必要なものが適切に配置できる広さであること。
脚まわりの空間は、VDT作業中に脚が窮屈でない大きさのものであること。
机又は台の高さについては、次に示す数値を目安にすること。(イ) 高さの調整ができない机又は台を使用する場合、床からの高さは65cm以上70cm以下のもの。 (ロ) 高さの調整が可能な机又は台を使用する場合、床からの高さは少なくとも60cm〜75cmの範囲で調整できること。
(3) 調整 無理な姿勢による作業が継続しないようにするため、次の事項に留意のうえ、椅子の座面の高さ、キーボード・CRTディスプレイの位置等を総合的に調整すること。 イ 椅子に深く腰をかけて背もたれに十分にあて、履き物の足裏全体が床に接した姿勢を基本とすること。また、書見台及び十分な広さをもち、かつ、すべりにくい足台を必要に応じて備えること。 ロ 椅子と大腿部膝側背面との間には手指が押し入る程度のゆとりがあり、大腿部に無理な圧力が加わらないようにすること。 ハ 上腕をほぼ鉛直に垂らし、かつ上腕と前腕の角度を90°又はそれ以上の適当な角度を保持したときに、キーボードに自然に手指がとどくようにすること。 ニ CRTディスプレイは、その画面の上端が眼の位置より下になるような高さにすること。
また、おおむね40cm以上の視距離が確保できるようにすること。ホ CRTディスプレイ画面とキーボード又は書類の視距離の差が極端に大きくなく、かつ、適切な視野範囲になるようにすること。
5 VDT機器等及び作業環境の維持管理
作業環境を常に良好な状態に維持し、VDT作業に適したVDT機器等の調整を図るため、次により点検、調整及び清掃を行い、必要に応じ、改善措置を講じること。
(1) 日常の点検と調整
VDT作業従事者には、日常の業務の一環として、作業開始前又は一日の適当な時間帯に、採光、グレアの防止、換気、静電気除去等について点検させるほか、CRTディスプレイ、キーボード、椅子、机又は台等の調整を行わせること。
(2) 定期点検
照明及び採光、グレアの防止、騒音伝ぱの防止、換気、空気調和、静電気除去等の措置状況及びCRTディスプレイ、キーボード、椅子、机又は台等の調整状況について定期に点検すること。
(3) 清掃
日常及び定期に作業場所、VDT機器等の清掃を行い、常に清潔に保持すること。
6 健康管理
VDT作業に常時従事する労働者(以下「VDT作業常時従事者」という。)に対しては、次により健康管理を行うこと。
(1) 健康診断 イ 配置前健康診断 VDT作業に新たに従事する労働者(再配置の者を含む。以下同じ。)の配置前の健康状態を把握し、その後の健康管理を適正に進めるため、次の項目について健康診断を行うこと。
(イ) 業務歴の調査
(ロ) 既往歴及び自覚症状の有無の調査
(ハ) 眼科学的検査
a 視力検査
(a) 5m視力の検査
(b) 近方視力の検査
b 眼位検査
c 調節機能検査
(a)又は(b)のいずれかを行う。
(a) 近点距離の測定
(b) 調節時間の測定
d 眼圧検査
e その他医師が必要と認める検査
(ニ) 筋骨格系に関する他覚的検査
a 視診及び触診
b 握力検査
c タッピングテスト
d その他医師が必要と認める検査
(ホ) その他医師が必要と認める者についての必要な検査
ロ 定期健康診断 定期健康診断(労働安全衛生規則第44条に定めるものをいう。)を実施する際に、併せて次の項目について行うこと。
(イ) 業務歴の調査
(ロ) 既往歴の調査
(ハ) 自覚症状の有無の調査
a 眼疲労を主とする視器に関する症状
b 頸肩腕部の筋及び腰背部を主とする体軸筋のこり・痛み等の症状
c その他の精神神経疲労に関する症状
(ニ) 眼科学的検査
a 5m視力の検査
b 近点距離の測定
c その他医師が必要と認める検査
(ホ) 筋骨格系に関する他覚的検査
a 視診
b 握力検査
c その他医師が必要と認める検査
(2) 健康診断結果に基づく事後措置 配置前又は定期の健康診断によって早期に発見した健康阻害要因を詳細に分析し、有所見者に対して次に揚げる保健指導等の適切な措置を講じるとともに、予防対策の確立を図ること。 イ 業務歴の調査、他覚症状等から愁訴の主因を明らかにし、健康管理を進めるとともに、職場内のみならず職場外に要因が認められる場合についても必要な保健指導を行うこと。 ロ 視力矯正が不適切な者、特に強度の近視、遠視又は乱視の者には、適正視力でVDT作業ができるように、必要な保健指導を行うこと。 ハ VDT作業を続けることが適当でないと判断される者又はVDT作業に従事する時間の短縮を要すると認められる者等については健康保持のための適切な措置を講じること。
(3) 健康相談 VDT作業従事者が気軽に健康について相談し、適切なアドバイスを受けられるように、健康相談の機会を設けるよう努めること。その際、中高年齢者のほかパートタイム労働者も相談しやすい環境を整備するなど特別の配慮を行うことが望ましい。
(4) 職場体操 VDT作業常時従事者については、就業の前後又は就業中に体操を行わせることが望ましい。
7 労働衛生教育
労働衛生管理のための諸対策の目的と方法をVDT作業従事者に周知することにより、職場における作業環境・作業方法の改善、適正な健康管理を円滑に行うため及びVDT作業による心身への負担の軽減を図ることができるよう、必要な労働衛生教育及びVDT作業の習得訓練を行うこと。
(1) VDT作業従事者に対して、次の事項について教育を行うこと。また、当該作業者が自主的に健康を維持管理し、かつ、増進していくために必要な知識についても教育を行うことが望ましい。
イ VDT作業の健康への影響
ロ 照明、採光及びグレアの防止
ハ 作業時間等
ニ 作業姿勢
ホ VDT機器等及び作業環境の維持管理
ヘ 健康診断とその結果に基づく事後措置
ト 健康相談
チ 職場体操
リ その他VDT作業に係る労働衛生上留意すべき事項
(2) 必要に応じ、VDT作業従事者を直接管理監督する者に対して、次の事項について教育を行うこと。
イ 管理者の役割と心構え
ロ VDT作業従事者に対する教育の方法
ハ 労働衛生管理の概論
ニ VDT作業の健康への影響
ホ 照明、採光及びグレアの防止
ヘ 作業時間等
チ VDT機器等及び作業環境の維持管理
リ 健康診断とその結果に基づく事後措置
ヌ 健康相談
ル 職場体操
ヲ その他VDT作業に係る労働衛生上留意すべき事項
(3) VDT作業に新たに従事する労働者に対して、VDT作業の習得及びVDT作業の習熟に必要な訓練を行うこと。